夢かうつつか

夢ならどうか醒めないで。

🐭🧀 感想

原作との解釈違いや変に期待して先入観で観たくないなって思ったからまだ原作を見ていないので、あくまでも原作未読の実写''窮鼠はチーズの夢を見る''の感想


なんとなく二年付き合ったから結婚とか''なんとなく''で流されて生きてきた恭一は多分今までちゃんと好きになったことはないんだなって。奥さんが別れを切り出したのもわかるくらいどこか関心がないというか。


世間一般で考えるとゆるくて節操の無い''クズ''というカテゴリーなのかもしれないけど、純粋に夢中になれることがないんだなと。一見相手のためを思った完璧で優しい男に見えるけど、それは全て自分を守るためでしかなくて、それが結局相手を傷つけてる。


「全員が全員見た目が良くて完璧で自分を満たしてくれる人を探してるわけじゃない(ニュアンス)」っていった今ヶ瀬の言葉は恭一にどこまで刺さったかわからないけど、恭一のダメなところも全て受け入れて、ずっと愛してくれてる今ヶ瀬の存在はとても大きかったのではないかと。
今ヶ瀬の前ではフラットに、そしてありのままいれるからこそ同居を許してしまうというか。でもそのことに恭一自身気づいていない。


きっと、なつきに「どっちをとるの?」と言われた時に即答できなかったのも、なつきと結局できなかったのも、今ヶ瀬への何かが芽生えていたはずなんだけど、本当に恭一は気づいていない。
ずっと「無自覚」

だからこそ今ヶ瀬は苦しいし、あまりにも残酷なんだよなと。無自覚だからこそ自分本意で振り回す。


徐々に恭一が自分の気持ちを理解してきた中盤の「バカだなぇ お前は」が大好き。こんな自分をいつまでも愛してくれる今ヶ瀬への紛れもない本心。


原作の方はわからないけど、この恭一はちゃんと、ちゃんと今ヶ瀬のこと好きなんですよ。たまきに「忘れるわけがない」と言ったように、きっといつまでも心にあり続けるし、流されて何かに執着してこなかった恭一が初めてみせた執着で初めての失恋なのだと思う。今ヶ瀬に「あなたじゃない」と言われ頬を叩かれたあの時の恭一の死んだ目は、これまで女に向けてきた感情のない、興味のない目ではなく、明らかに傷ついた目だった。あの時恭一は確かに失恋をしていたと思う。ちかこと別れて一人暮らしをしているとき、それなりにダメージはあるかもしれないけど、ハッテン場で泣きながら口から酒を溢して、そして声を上げながら街を歩く、そんな痛々しい恭一ではなかったと思う。


「お前を選ぶわけにはいかない 普通の男には無理だ」
なつきと今ヶ瀬と3人で飲んでるシーンの恭一の言葉。
海のシーンの「心底惚れるって、全てにおいてその人だけが例外になる(ニュアンス)」っていう今ヶ瀬くんの話、まさに恭一に当てはまると思っていて。その時の恭一はどこまで自覚してるかわからないけど。

 


別の時間に観にいった友人から「最後がどうしてそうなるのかよくわからなかった」と言われたけど、おそらくずっと愛していた恭一に彼女との結婚を破棄してまでも「一緒に暮らそう」と言われたのに姿を消した今ヶ瀬くんの気持ちがわからなかったのかなと。
わたしは物語を今ヶ瀬寄りで感情移入してみていたから、なんとなくこんな気持ちなのかなと汲み取って見ていたんですよね。あるいはこれまでにたくさんの作品を読んできたからか。


好きで好きでたまらない、だからこそ相手の幸せを心から願っているし、彼女との結婚を破棄させてまで恭一と暮らすという現実から今ヶ瀬は逃げた
のかなと。なつきに「(恭一には)逃げ道を作ってあげないと」と言っていた自分がその逃げ道を塞いでしまってる現実に彼は苦しんでいた。
もともとノンケの恭一との「世界が違う」こと、恭一がいつかまた女のところに行ってしまうのではという恐怖、男である自分とずっと一緒にいることで潰してしまうかもしれない彼の未来。今ヶ瀬くんはほんとにいろんなものが苦しくて苦しくて仕方がなかったのではないかと。
時々恭一を揺さぶるように「女が恋しいでしょ(ニュアンス)」という今ヶ瀬は、ずっとそんな不安を抱えていて、恭一にそれを否定して欲しい反面どこかバッサリ自分を捨てて欲しい、こんな苦しいならいっそのことここで切って欲しいという思いがあるように見えて。
ファンデーションのついた喪服を見て声を上げた彼の「あなたじゃない あなたにも俺じゃない」という言葉が痛くて苦しくて本当に切ない。恭一に女の影がみえたことで自分の身を引く今ヶ瀬と、その言葉を間に受けて「終わりにしよう」という恭一。あの時の今ヶ瀬の気持ちは上手く言葉にできないほどたくさんの物を抱えていて。本当に苦しくて苦しくて涙が止まらなかった。

 


その後も結局会ってしまう2人。「お前はいらない」と言われてもまた会ってしまうのは、今ヶ瀬がまたつけていたからなのか恭一が連絡したからなのかわからないけど、今ヶ瀬は彼の''逃げ道''になることが1番気楽なのかもしれないと思った。「彼女と別れてください」も「これまで通り器用に生きればいい(たまきと結婚して今ヶ瀬と会う)」も本心。でもそこで恭一は今ヶ瀬を選んだ。そして今ヶ瀬はその現実から逃げたではないかと思った。

 


後半、無自覚なのかはわからないけど恭一は本当に今ヶ瀬のことが好きなのだと思う。そしてこれまで通りきっと今ヶ瀬はいつか帰ってくると信じている。
劇中よく今ヶ瀬が座っていたあの椅子。あれにたまきが座った時、恭一はすぐたまきのことを読んで座らせなかったところに愛を感じた。今ヶ瀬のところには絶対に座らせない。
そしてラストの今ヶ瀬がよく座っていた高い椅子に座ってチーズのような黄色い灰皿入れを眺めている様子は、まるでチーズという餌でおびき寄せた鼠を捕まえようとしているようにみえた。

 


一方の今ヶ瀬は、恭一から離れて違う男に抱かれたけれどやっぱり恭一のことが忘れられないしほんとにいろんな葛藤を抱えて苦しんでいて、恭一じゃない男の手を振り払って声を上げて泣いた姿が本当に切なかった。

 


すれ違う2人、今ヶ瀬の気持ちを思うと本当に心が苦しくて痛くて切ないラストだけれど、''悲しい''かと言われたらそうじゃなくて。
きっとこの続きがあるなら今ヶ瀬はまた戻ってくると思うんですよね。


でも長くは続かなくて、また今ヶ瀬が離れてしまうんだろうなと。それでもまた恭一は彼を待つし、今ヶ瀬も戻ってくる。きっと彼らはこれからもいろんな葛藤を抱えながら一緒になって、また離れてを繰り返していくんだろうなと。


そしてそれも長くは続かなくて、きっといつか今ヶ瀬は本当に姿を消すのだと思う。


いつかはくる終わりとほんの一瞬の幸せと。相手を思う''理屈じゃない愛''が重く苦しく残酷で、そして愛おしいそんな映画。